アメリカの出産費用は本当に高い?実際の自己負担を公開

出産・育児

「アメリカで出産したら数百万円の請求が来るらしい」——渡米前、いちばん不安だったのがお金のことでした。

この記事は、ミシガン大学病院(Michigan Medicine)で無痛分娩をしたときに、実際に届いた請求書をもとに書いています。

実際に届いた請求書の総額は、約$35,970(約575万円)。数字だけ見れば噂どおりです。

でも、実際に支払った金額は約$2,550(約41万円)でした。さらに日本の健康保険から出産育児一時金48.8万円が申請できるので、出産にかかった費用はほぼ相殺できる計算になります。

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この金額はあくまで一例です。アメリカの出産費用は、加入している保険プランの条件次第で自己負担が10倍以上変わります。
金額そのものより、金額が決まる「仕組み」のほうを持ち帰ってください。

※本記事の円換算は1ドル=160円で計算しています。レートは日々変動するので、ご自身のタイミングで計算し直してください。

この記事でわかること

  • アメリカの出産費用が「請求額」と「自己負担額」でどれだけ違うか(内訳つきの実例)
  • 自己負担額を決める3つの数字(Deductible・Coinsurance・Out-of-Pocket Max)の意味
  • 海外で出産しても出産育児一時金48.8万円は申請できることとその手順

請求書は1通じゃない|アメリカの出産費用は4つに分かれて届く

まず、いちばん驚いたのがこれです。

アメリカの出産費用は、1通の請求書ではまとめて届きません。

届いたのは4つ。しかも支払い時期がバラバラで、最後の1通が届いたのは退院から1か月以上あとでした。

請求元内容
① 病院(母)分娩室・病室・麻酔の薬剤など、施設としての費用
② 病院(新生児)新生児室・新生児のスクリーニング検査など
③ 医師(産科医・麻酔科医)分娩を担当した医師と、硬膜外麻酔を入れた麻酔科医の技術料
④ 医師(新生児科医)赤ちゃんを診た小児科医の診察料

「病院」と「そこで働く医師」は、別々に請求してきます。日本の感覚だと病院に払えば終わりですが、アメリカでは施設利用料(Facility fee)と医師の技術料(Professional fee)が完全に別会計です。

さらに、赤ちゃんの分は母親とは別に請求されます。ここを知らないと「もう払ったはずなのに、また請求が来た」と混乱します。届いた請求書の枚数が予想より多くても、たいていは間違いではありません。

アメリカの出産費用|請求額と自己負担額

アメリカの医療費は「病院からの請求額(Billed)」「保険が負担した額(Plan Paid)」「自分が払う額(Your Responsibility)」の3段階で見ます。

まずは全体像

請求元請求額保険負担自己負担
① 病院(母・分娩入院)$18,360$16,290$2,070
② 病院(新生児・入院)$7,070$6,590$480
③ 産科医・麻酔科医$9,810$9,810$0
④ 新生児科医$730$730$0
合計$35,970$33,420$2,550

請求総額の約93%を保険が負担しました。円換算すると、請求約575万円に対して自己負担は約41万円です。

アメリカの医療費で本当に見るべきなのは、いちばん左の数字ではなく、いちばん右の数字です。

① 病院(母・分娩入院)の内訳を見る
項目金額
分娩室$7,590
病室・食事(セミプライベート)$5,380
麻酔(薬剤・使用料)$3,800
薬剤$600
医療・手術用備品$590
検査(血液検査など)$360
付き添い家族の食事$40
請求額合計$18,360
うち保険負担$16,290
自己負担$2,070

自己負担の内訳は、コインシュアランス(定率負担)が約$2,030、保険対象外が$40でした。

この$40は付き添いの家族の食事代です。医療行為ではないので当然カバーされません。アメリカの病院は付き添い家族の食事を注文できますが、これは全額実費になります。金額は小さいものの、「請求書に見慣れない項目があっても、たいていは説明のつくもの」という一例です。

② 病院(新生児・入院)の内訳を見る
項目金額
新生児室(Nursery)$4,600
新生児聴覚スクリーニング$1,150
医療・手術用備品$610
検査$390
薬剤$160
その他の治療$80
予防医療サービス$80
請求額合計$7,070
うち保険負担$6,590
自己負担$480

新生児室だけで$4,600。赤ちゃんが入院中に受ける聴覚スクリーニングや検査も、すべて赤ちゃん名義で請求されます。

③ 医師(産科医・麻酔科医)の内訳を見る
項目金額
産科ケア・経腟分娩$6,450
硬膜外麻酔$1,600
硬膜外麻酔・追加分$1,520
退院日の診察$240
請求額合計$9,810
保険負担$9,810
自己負担$0
④ 医師(新生児科医)の内訳を見る
項目金額
初回の新生児診察$330
入院中の経過診察$160
退院日の診察$240
請求額合計$730
保険負担$730
自己負担$0

医師からの請求(③④)は、母子どちらも自己負担ゼロでした。この時点でその年の自己負担上限(Out-of-Pocket Max)に到達していたためと考えられます。

無痛分娩(硬膜外麻酔)の費用だけ抜き出すと

無痛分娩を検討している方向けに、麻酔だけ合算しておきます。

  • 病院側(薬剤・使用料):$3,800
  • 麻酔科医の技術料:$1,600 + $1,520 = $3,120
  • 麻酔だけで請求額 約$6,920(約110万円)

請求額は110万円ですが、実際の自己負担はほぼゼロでした。日本では無痛分娩を選ぶと10〜20万円ほど上乗せになるのが一般的なので、ここはアメリカのほうが有利になりやすいポイントです。

無痛分娩そのものの流れや、実際にどんなお産だったかは別の記事にまとめています。あわせてどうぞ。
→ ミシガン大学の病院での無痛分娩レポート

この記事で扱うのは「出産・入院にかかった費用」です

上記4通は、出産と入院のときに発生した費用です。妊婦健診の費用はこれとは別に、支払う形になります。健診にいくらかかるかは通院回数やプランによって変わるので、この記事の金額には含めていません。

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私は妊娠8ヶ月で渡米したため、妊婦健診のほとんどを日本で受けていました。

この金額は特殊なケース?平均と比べてみる

自分ひとりの数字だけでは判断材料になりにくいので、公的な調査と並べてみます。

  • カイザー・ファミリー財団(KFF)の分析では、大企業の雇用主が提供する保険に加入している女性の場合、妊娠・出産・産後ケアの費用は平均約$19,000、うち自己負担は約$3,000(2018〜2020年の請求データが対象なので、現在はやや上振れしている可能性があります)
  • 現地情報誌ライトハウスでは、自己負担額の平均は$3,000〜$5,000程度とされています

今回の自己負担約$2,550は、平均よりやや低いものの、極端に特殊なケースではないとわかります。

自己負担額を決めるのは「請求額」ではなく「保険プランの条件」

ここが、アメリカの医療費でいちばん誤解されているところです。

請求額がいくらであろうと、自己負担額は保険プランの条件で決まります。押さえるべき数字は3つです。

① Deductible(ディダクティブル/免責額)

保険が負担を始める前に、自分で全額支払う年間の金額です。$1,000なら最初の$1,000は全額自己負担。ここを超えてはじめて保険が働き始めます。

② Coinsurance(コインシュアランス/定率負担)

Deductibleを超えたあと、保険と自分で費用を分け合う割合です。今回の請求書で自己負担になっていた約$2,030は、まさにこのコインシュアランス分でした。

日本の3割負担に近い考え方ですが、分母になる請求額が桁違いなので、金額のインパクトが全然違います。

似た用語のCopay(コーペイ)は「受診1回◯ドル」の定額負担で、こちらは請求額に関係なく固定です。

③ Out-of-Pocket Max(自己負担上限)

1年間で自分が払う金額の上限です。DeductibleもCoinsuranceもすべてここに積み上がり、上限に到達したら、その年の残りの対象医療費は保険が全額負担します。

出産費用を考えるうえで、いちばん重要なのはこの数字です。今回、医師からの請求(合計約$10,540)が自己負担ゼロだったのは、この上限に到達していたからです。

つまり、請求額が$36,000でも$80,000でも、上限が同じなら自己負担額は変わりません。請求総額の大きさに一喜一憂しなくていい、というのがアメリカの医療費のいちばん大事な性質です。

あわせて確認:In-network / Out-of-network

保険会社と契約している医療機関・医師がIn-network、契約外がOut-of-networkです。Out-of-networkだと自己負担が跳ね上がるうえ、Out-of-Pocket Maxに算入されないプランもあります。

分娩では「病院はIn-networkなのに麻酔科医だけOut-of-network」という事態が起こり得ます。2022年施行のNo Surprises Actにより、In-networkの施設で受けた治療については想定外の高額請求から一定の保護がありますが、事前に確認しておくに越したことはありません。

海外出産でも出産育児一時金48.8万円は申請できる

日本の公的医療保険に加入したまま渡米している場合、アメリカで出産しても出産育児一時金は申請できます。厚生労働省も、出産した時点で有効な加入資格があれば、加入している保険者に申請できると明記しています。

駐在に帯同して日本の健康保険組合や協会けんぽに継続加入している方、退職せずに休職・育休のまま渡米している方は対象になり得ます。まずは加入先の健保に確認してみてください

金額は50万円ではなく48.8万円

ここが見落としやすいポイントです。

出産育児一時金は原則50万円ですが、この中には産科医療補償制度の掛金1.2万円が含まれています。海外の医療機関はこの制度に加入していないため、海外出産の場合は48.8万円が支給額になります。

なお、健康保険組合によっては独自の付加給付が上乗せされることがあります。加入先の給付一覧を確認してみてください。

今回のケースで計算すると

項目金額
アメリカでの自己負担(出産・入院)約41万円($2,550/1ドル160円換算)
出産育児一時金(海外出産)48.8万円
差引約7.8万円のプラス

出産・入院にかかった費用は一時金でカバーでき、計算上はお釣りが出ることになります。

日本で無痛分娩を選んだ場合、正常分娩の全国平均約52万円に麻酔代10〜20万円が上乗せされ、一時金50万円を引いても12〜22万円ほどの持ち出しになるのが一般的です。なお、この全国平均には個室代(室料差額)や産科医療補償制度の掛金、お祝い膳などが含まれていないため、実際の持ち出しはさらに増えることがあります。少なくとも「アメリカだから桁違いに高い」ということにはなりませんでした。

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それぞれの健保によると思いますが、申請するためにも様々な資料が必要になり中には原本を郵送する必要がある可能性があります。
そのため、申請にも時間を必要とし、事務処理の後振込までにも時間がかかるため、タイムラグが発生し後から返ってくることがほとんどだと思います。

円安のときほど、一時金の価値は目減りする

見落とされがちですが、一時金は円建てで固定、アメリカの医療費はドル建てです。つまり円安が進むほど「48.8万円で払える金額」は目減りします。

為替レート自己負担$2,550の円換算一時金48.8万円との差引
1ドル140円約36万円約13万円のプラス
1ドル150円約38万円約11万円のプラス
1ドル160円約41万円約8万円のプラス
1ドル170円約43万円約6万円のプラス

為替次第で収支は変わります。少し悪めのレートで計算しておくと安心です。

申請の流れと必要書類

保険者によって細部は異なりますが、海外出産の場合はおおむね以下が必要になります。必ず加入先の健保に確認してください。

  • 出産育児一時金支給申請書(保険者から取得)
  • 現地の医療機関または公的機関が発行した出生証明書の原本
  • その日本語翻訳文(翻訳者の住所・氏名の記載が必要)
  • 出産時に海外にいたことがわかる書類(パスポートの写し、航空券の写しなど)
  • 保険者から求められる同意書(現地医療機関への照会に関するもの)

申請期限は出産日の翌日から2年間です。時効があるので、落ち着いたら早めに動きましょう。

出生証明書の取得と和訳については、日本への出生届の提出でも同じ書類が必要になります。手順はこちらにまとめました。
→ アメリカで生まれた子の出生届と国籍留保の手続き

なお、海外出産では日本の「直接支払制度」は使えません。いったん全額を自分で支払ってから、あとで請求する流れになります。

産休・育休中の方は他の給付もあわせて確認を

出産育児一時金とは別に、産休中の出産手当金、育休中の育児休業給付という制度があります。海外にいることが受給の可否や手続きにどう影響するかは、勤務先・健保・ハローワークで扱いが分かれる部分です。一時金の申請ついでに、あわせて確認しておくことをおすすめします。

今日からできる|出産前の保険チェックリスト

アメリカの出産費用は、産む前の準備でほぼ決まります。

  • SBCを入手する:SBC(Summary of Benefits and Coverage)は保険プランの条件をまとめた数ページのPDF。保険会社のポータル、または配偶者の会社の福利厚生ページからダウンロードできます
  • Deductible / Coinsurance / Out-of-Pocket Maxの3つを控える:個人単位と家族単位で金額が違うので両方確認を
  • 病院・産科医・麻酔科医・新生児科医がIn-networkか個別に確認する:病院がIn-networkでも、医師は別契約です
  • 予定日が保険年度(Plan Year)をまたがないか確認する:年度が変わるとDeductibleもOut-of-Pocket Maxもリセットされます。健診と分娩が別年度に分かれると、自己負担が二重にかかります
  • 出産後すぐに赤ちゃんをアメリカの保険に追加する:出産はQualifying Life Event(資格変更事由)にあたり、期限内に手続きすれば出生日にさかのぼって適用されます。期限は会社経由の保険なら最短30日、マーケットプレイスの保険なら60日と制度によって違うので、必ず自分のプランで確認してください。新生児だけで$7,000超の請求が来るので、これが最優先の手続きです
  • 日本の健保にも赤ちゃんを追加する:帰国後の医療や各種手続きで必要になります
  • 出生証明書は原本を確保しておく:出産育児一時金の申請に原本と和訳が必要です。日本の出生届提出とあわせて考えると、複数部取得しておくと安心です
  • 請求書はEOBと突き合わせてから払う:保険会社から届くEOB(Explanation of Benefits)は請求書ではなく明細のお知らせです。病院から実際の請求書が来るまで払わないでください

まとめ

アメリカの出産費用は「高い・安い」の一言では語れません。請求総額約$35,970に対して自己負担は約$2,550、決め手になったのはOut-of-Pocket Maxという保険プランの条件でした。

そして、海外で出産しても日本の出産育児一時金48.8万円は申請できます。出産・入院にかかった費用は、これでほぼカバーできる計算でした。

産む前にSBCを開いて3つの数字を確認しておくこと、そして出生証明書を原本で確保しておくこと。この2つだけでも、数万ドルの請求書が届いたときの安心感がまったく違います。

同じように渡米後の出産を控えている方の参考になればうれしいです。ご質問やご相談は、お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。

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